JOURNAL | Vol. 18

引っ越し前の部屋。立ち退きをきっかけに住まいを考え直すことになった頃の室内風景。

以前住んでた部屋のキッチンの作業台 大根で何作ったんだっけ?

2024年の夏の終わりに、住んでいる部屋のオーナーから手紙が届き、そこを離れることになった。
突然で驚いたが、周囲やニュースなどで聞いたことがあったので、それと同じだーと。
大袈裟に語りたい訳ではないけど、ひとつの経験として綴っておこう。

手紙には、
「この部屋を購入」
「立ち退き料を払うので他所に引越し」
「定期借家に切り替えて1年以内に他所へ引越し」
この3択から選んでという一方的な内容が書かれていた。
後に、そのまま住んでも良いけれど、家賃は値上げしますよという説明も受けた。
(なぜ手紙に、値上げはするがそのまま住んでも良い旨も書かないのだろか)

もちろん、滞納やトラブルを起こしたことはなく、9年住んだ部屋。
オーナーが管理してる物件で長く借りている人たちに同様に提案していると後で聞いた。

色々な状況や気持ちがある中で、「他所へ引越す」ことを選んだ。
転居先のこと、この先の暮らし方、立退料の交渉も全て並行して考えて行動する日々が急に始まった。

現実的で大事なこと。
立退料については慎重に交渉させてもらった。
全くわからない分野だったので、知り合いの不動産屋さんに話を聞いてもらったり、役所で提携している弁護士さんに相談したり、自分なりに勉強して慎重に。

転居先については、賃貸で探してはみたものの、猫たちも一緒に住める物件がかなり少なく苦戦した。
家賃も9年前に比べて高く、タイミングもあったと思うけど、広さも重視する私たちにとって条件が合う物件になかなか出会えず、2ヶ月が過ぎてしまった。
退去のリミットもあるので、とにかく時間がなくて焦った。

そのあたりから中古マンションを購入〜改装にトライしてみようという考えになり、スイッチが入る。
実際そこから2025年の春に引っ越すまでノンストップの日々だった。

まずは物件探し。

重要順:猫たち/広さ/日当たり/環境/改装のしやすさ/距離/極端に古過ぎない築年数

毎週3件ほど内見に行く。
見ていくうちに、改装しやすい部屋がなんとなくわかってくる。
しかし、とにかく条件に合う物件がない。というか、私たちが合わせにいってないというか。笑
予算を潤沢に設定していないことが理由としては大きいけど、限られた中でも十分に形にすることは、これまでの仕事でも繰り返してきたことだし、腕の見せ所だと思って前向きに捉えることにした。

最終的に、専門的なサイトで見つけた、バブル期に建てられた大型マンションに行き着く。

売主さんは居住中で、内見では少し緊張もしていたので、見てるようで見ていない感じで終わる。
この後の改装にも関わってくるので、細かな部分も見たかったけど、正直、居住中の物件は恐縮してしまい自分ペースで見れないなって思った。
居住されている方はとても親切で穏やかな高齢の方と成人のお孫さんの二人暮らし。
近所の情報や、季節の移ろいのこと、日当たりのこと、リアルな色々を直接お聞きすることができるのは、居住中物件の良いところかもしれない。

結果、このマンションに決める。

ライバルが現れたけど(他にも希望者が出たと連絡があり煽られる..ありがちな展開)諸々の関門を通過し、
無事購入することができた。

さて、ここからだ。楽しみでもあり、材料費も人件費も高騰している中でのリフォームになる。
どこまでできるかは、正直やってみないと分からない。

全体のレイアウトとマテリアルは自分で考え、施工と監理は、仕事でお付き合いのある岡山の ELD INTERIOR PRODUCTS に協力いただくことに。

この段階でまだ居住中のため、何度もお邪魔して諸々の確認に行くのは控えたい。
購入の契約直後に一度だけ関わる全員で伺い、取りこぼしがないよう計測と現状確認に伺う。
居住中の方とは2度目なので、少し緊張も解け、ここぞとばかりに気になってたポイントをチェックした。

早速図面を取り寄せ、私なりのアイディアをフル回転させて、図面にどんどん落とし込んでいく。
周囲に建築デザイン関係の人が多く、ELDさんに都度聞くのは恥ずかしいくだらない心配を載せた疑問は聞いてもらった。
これが本当にありがたかった。

ここで思ったこと。
みんなのジャッジポイントを聞かせて欲しい。

今回の改装は、明確なロールモデルがあった訳ではない。とにかく自分たちがどう暮らしていきたいか、自分たちのスタイルをまずは反映させたいと思って取り組んだ。中でも特に水回りの使い勝手や、似た素材で機能と費用が変わるものを選ぶ時、結果何を優先させて決定したのかなど、もちろん正解はないのだが、みんなどう判断して結果どうなったかというリアルな話を聞きたかった。
理想も大事だけど、ハイスペックなものを選ぶことが良いとは限らない。
そのバランスのジャッジをするポイントの連続なので、私は周囲の人によく質問した。
「うちはこうしたよー」の話がとても参考になる。

レイアウトの話。

昔から、ワンフロアで住むことが夢だった。
今回の物件探しでも、当初ワンフロアで探したが、これがなかなかない。
なかなかない理由を不動産屋さんに聞いて納得。
物件探しの段階から気にしていた「改装のしやすさ」の私なりのチェックポイントは、「いかに少ない作業で壁を壊せるか」だった。費用にも関わることだ。
最終的に、一般的なレイアウトを持つ部屋に決めたのだけど、シンプルにこことここを無くせば広がるね、という絵がすぐに見えたことが大きかった。

改装するにあたり、最初に取り掛かった(イメージの元にした)箇所は、キッチンと床の関係。
ここから派生させて部屋全体のレイアウトとマテリアルを構築した。

床の素材は「ロンリウム」と当初から決めていた。ロンリウムは、施設や学校で使われることの多い素材で、タフなことはもちろんだけど、スタイル的にも合っている感じがしたので、床材が必要な場面ではこれを採用した。
次にキッチン。これは今回の部屋の方向性の中心にあるものなので、理想が先立っていたこともあり、想定していたサイズ感と素材では想像以上の費用感となることがわかり落ち込んだ。
幅サイズは3.6mが絶対と考えていた。長いのはわかってたけど、その分費用が..
この繰り返しですね。笑

仕事でお店の立ち上げに関わることもあるので、理想と現実についてはわかってはいるものの、
なんだかなー と少しいじけた。

キッチンについてはELDさんもニュアンスを汲んでくれて、探すのを手伝ってもらった。
知らなかったメーカーを紹介いただきショールームへ早速見に行き、スムーズに決定することができた。

このあたりから、隙あらばショールームに行く日々。
ショールームって重要と改めて思う。
ASENDADAでも代々木上原にオフィス兼ショールームを設けているが、かなり不十分だと勉強になった。

購入・改装作業と並行して進めていた立ち退き料の話もまとまってきた。
少し肩の力がほぐれた感じがした。

床とキッチンから派生した全体図はほぼ完成。図面上では。
費用面も都度調整しながら進めていたので、とりあえず予算内に収まっているかなと。

このタイミングで、まだ売主さんは居住中。
年を越して1月末に引っ越すとのことなので、改装工事は2月1日〜1ヶ月間。
私たちの引っ越しは3月1週目に決定。
引越し屋さんにも見積もり依頼をして、梱包作業も少しずつ始める。
そして体調を崩す。咳が止まらない。コロナでもインフルエンザでもない。

12月になり私が担当しているレイアウトとマテリアルの諸々は完了。
あとは工事を始めて解体してみないとどうなるかわからないということに。
年末にスケールの大きいお仕事の依頼が入り、スムーズに仕事に取り掛かることができた。
年明けすぐにプレゼンテーションだったので、年末年始は大晦日も元旦もずーっとアイディア出しの作業とスケッチに取り組み、忙しくしていた。

待ちに待った2月1日。
私も現場に立ち会い、解体作業を見たり、それまでしっかり確認できていなかった設備系の確認を一目散に行う。
設備系で見積もり外の費用が少し発生しそうな気配。なんとか少額で済みます様にと願った。
実際に開けてみると大幅に予想を外れることはなく、ほぼ考えた通りのレイアウトになりそうで安心した。
解体作業を少し見て、邪魔にならない様早めに現場を後にした。
好きな感じに部屋を作ってもらおうとしているのに、何故か人ごとの様で、不思議な気持ちだった。

施工会社はELDさんの提携会社で、関東圏の案件の時は施工を担当しているそう。
大変親切で、職人さんも丁寧な方ばかりで安心した。

当初、壁は塗装で検討していたのだが、予算的にクロスになり、これまた “いじけポイント” ではあったのだけど、一見塗装に見えるクロスをELDさんに提案いただきそれを施工していただいた。
いじけているので、一見塗装に見えると言われても、そんなことある?とかなり疑いながら、我慢の方向で決定したのだが、いざ施工されるとこれが塗装っぽく見えるのだ。びっくり。
しかもうちには都合が良く、選んだクロスが拭き掃除にも強いコーティングがされている仕様なので、猫たちが汚しても拭けばよくて、水回りも拭けば解決で。結局、塗装より良かったかもしれないって話している。
クロスが劣化した頃に塗装に切り替えたり、今後のプランも頭に入れながら納得できたのでよかった。

一部の壁に強め釉薬のタイルを貼る計画を立てている。
こんなことも追々できる余白を大事にしたプランで改装を進めた。

なんだかんだで竣工を迎え、見積もり外の費用もそこまで大きくなく、無事完了。
改装費用については、当初から想像以上の金額ではあったけど、情勢などを踏まえると当然だよねと慰める。
これからもっともっと高騰するのだろうか。

引っ越しに先立って、猫たちと私が一足早く入居開始。
3月初旬でエアコンも未装着、小さいストーブのみでかなり寒い初日だった。
猫たちの移動は2回に分けて。思ったよりも変な感じにはならずだったが、2日目の朝、4匹中3匹がどこにもいない事件発生。
家具などもないので、探すにしても限られているし、全部見たし。
徐々に心配が大きくなり、血の気が引き震えた。神隠しってこうしてサラッと行われるんだって本気で思ってしまうくらい。
そういう時に限って何故かベランダの鍵が空いてて、窓が1cmくらい開いているのに気がついて、「私が寝ている間に夢遊して開けてそこから猫たちが出て地上に落ちたんだ!」と慌てて下を見たけど形跡はなく。
家族に「どうしよう」の電話をかけた。電話してるとメンメが洗面所の入り口付近に何か言いたげに座ってて。
まさかと思い、洗面台の引き出しを開けてみると3匹がぎゅうぎゅうに入っていた。
洗面台の底から奥の方を見てみると、引き出しとの間にわずかなスペースがあり、猫だったら簡単に出入りできる構造だった。
心臓が飛び出そうになって、安心して、そこで一連の出来事が現実に思えて嬉しくなった。変なタイミング。

その週末に全ての引っ越しが完了した。

おつかれさま。

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JOURNAL | Vol. 17